NINJA TOOLS

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××の×クローバー
「リンカのバカ!バーカバーカッ!」
四方を高い岩山に囲まれた、ほの暗い静かな草原に、二つの明かりが灯り、騒がしい一声が響いた。
「うるさいなバカメイナ!少しは静かにしてよッ!!」
同じくらい騒がしい、返す声。すたすた、ずんずん進むリンカの後をメイナが追うように駆ける。
二人の手にはそれぞれランタンが、あたたかい光を放っている。
「何でそんなに切れてるの?」
「………」
「ほら、言わないし。言わないで分かるかってーのよ!バーカ!」
「何だとぉ!?バーカバーカ!」
さっきから何度繰り返したか分からないやり取り。普通だったらとっくに懲りて、飽きているところだが、彼女達にはそんなそぶりも無い。
何度も続く、変わらない応酬。しかし、その時、リンカが足を止めた。
「…そろそろ本当に教えてよ。私、何かしたの?」
先程までとはうってかわって真剣な低めのトーンでリンカが問う。
「…………」
メイナはなかなか口を開かない。それでもリンカは急かすこともなく、同じようにただ黙ってメイナの方に向き直る。
「………………………………………。」
さらに深く、沈黙が下りる。長い長い時が経ったように感じられる静寂が続きに続いた後、絞り出すようなかすれ声がメイナの口から漏れた。
「………のに」
「え?」
「初めてだったのに!!」
「…?!」
「初めて、この洞窟を攻略して…冒険者として初めて…嬉しかったのに…あ…少しだけだけどっ!!…二人で…初めて攻略したのにさ…リンカ…」
メイナはそこで区切り、鼻をすすって息を吸うと一際大きな声で言った。
「先に行っちゃうんだもんっ!!」
その大声と勢いに圧倒されたリンカにかまわず、たたみかけるように続けた。
「攻略成功して!…いぇーい!ってやって!それでさっきの鳥モンスターでもお祝いに食べて、楽しく話でもしようと思ってたのにっ!奥に出口みつけて、急に吸い込まれるみたいに行っちゃうんだもんっ!私の事なんか無視してるみたいに…さっ…ぐずっ」
竜頭蛇尾のごとくメイナの勢いが爆発して減速していった。減速しきった後もメイナは目と眉をつり上げながらぐすぐす目に涙を浮かべている。
リンカは目を丸くしてメイナの勢いにおされるも、ただただ話が終わるまでじっと沈黙を守っていた。そして、
「…ハァーー…」
「何が…ぐずっ…おかしいのさっ!!」
リンカが呆れとも安心ともつかない長いため息をついて行った。
「だって…そんなの私も一緒だもん…一応だけど」
「一応ッ!?こっちだって」
「いいから…コレ見て!」
リンカが大きく手を広げて体を一回転させる。
そこは、当然、岩山に囲まれた、暗い静かな草原である。
「………草原じゃん」
「そう!素晴らしいでしょ?」
メイナは納得できず、ムカムカを抑えながら言う。
「ただの草原がお祝いだって??」
「いいから、良く見てよ」
リンカはその場にしゃがみこむと、おもむろに足元の草を手でガサガサ、ガサガサとかき分ける。そして、ある一本の草に目をとめると、根元の方から摘み取った。それをメイナの眼前につきつけるようにさし出す。
「…何これ。四葉のクローバー??」
「そう。まあちょっと違うんだけど」
「違う…?何が?」
「これはね、ドクローバーって言うのよ」
「ドクローバー…」
なんだか不吉な名前だと、リンカは自分の事が嫌になったのかと、メイナは一瞬疑う。しかし、そんな事はお構いなしにリンカは続けた。
「そう。幸せの四葉のドクローバー。ほら、よく見るとフツーのクローバーより黒みがかってるでしょ?」
「幸せ…?ドクローバーなのに?毒もあるんでしょ?」
「うん。弱いけどね。…でも…ぴったりじゃない?」
「…?」
「私達に。いつもケンカばっかりして、今日だって記念の初攻略なのにケンカしちゃったし」
「…確かにそうだけど…」
「それに!」
「これからも危険な冒険を続けてくんだから。毒だのドクロだのくらい味方につけるくらいの力が無いとね。だからぴったりだと思って」
「………………………………まぁリンカがそれで良いならいーけど」
メイナは差し出されたクローバーを魔法杖のストラップにくくりつけると、自分も草をかき分け、少し遠くから四葉の、少し黒いクローバーを摘んでリンカの剣の柄尻の装飾部分に結んだ。
「メイナって花言葉知ってる?」
「花言葉?全然知らない…これ花じゃないケド?」
「…そうだね。…まあいいや。」
「ところで!鳥!せっかくとったんだし、食べるよね?」
「うん!食べる食べる!!」
その答えを聞いて満足した風のメイナはリズムよく歌いながら思っていた。
(花言葉…ホントは知ってるけど…クローバーの闇属性だし…多分)

私のものにならないなら呪います

(…なんてね。リンカがそんな事思うわけないか。)
二人は再び騒がしい声をあげながら出口の方に、洞窟の中へ戻っていく。楽しげに、これからの未来に希望を抱いて!